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常にスターダムに君臨する一方で、繊細、無邪気、バカ正直であったアーティスト『Marvin Gaye(マーヴィン・ゲイ)』

常にスターダムに君臨する一方で、繊細、無邪気、バカ正直であったアーティスト『Marvin Gaye(マーヴィン・ゲイ)』

 

マーヴィン・ゲイという男は、常に美しいメロディーとその声で、やさしい愛情を歌い、セックスを歌い、反戦を歌い、離婚を歌い、時にはドラッグにまみれたプライベートを歌った。

マーヴィンは非常に繊細で、無邪気でバカ正直で、そしてある意味、不器用なアーティストであった。

カリスマ的な魅力とエンタテインメント力をもち、常にスターダムに君臨する一方で、70年代以降の彼の音楽は私的な告白に終始した。

ショービズのトップに生きる一方で、エンタテイメントの枠をはずれた「告白的音楽」をつくってしまう。

その、一種あやうさがマーヴィン・ゲイの魅力であり、そういった方向を計算ではなく、「どうしてもこうなってしまうんだ」と言うのがマーヴィン・ゲイの不器用さであり、イノセンスである。

マーヴィンのキャリアのなかで、評論家たちに最も酷評されるアルバムがある。

邦題『離婚伝説』。「Here My Dear(1978)」がそれである。

 

 

酷評される原因は、プライベートを作品にあまりにも映し出してしまっているところにあるようだが、これは表現者たるもの極めて当たり前のことなのである。

人間である以上、いつも前向きで建設的な精神状態にあるとは限らない。

ベトナム戦争に表現者として立ち向かった「What’s Going On(1971)」が素晴らしくて、プライベートな負のエネルギーを発散した「Here My Dear」がよくないというのであれば、その時点ですでにマーヴィン・ゲイに触れる資格がないといえる。

マーヴィン最大の問題作は、何万回と聴き重ねても、今だに新しい発見をすることができる未曾有な存在である。

まずはその問題作の中から、私が知りうるSoul Musicのなかで最も美しいシャッフルナンバーであると思う『Sparrow』。

ドラッグと離婚係争からくる鬱状態にひどく悩まされて「雀(sparrow)」に問い掛ける内容のリリックになぜか心が重たくなる。



 

マーヴィン・ゲイには60年代から連れ添っている17歳年上の妻アンナがいた。

アンナは、モータウンの創始者であり首領であったベリー・ゴーディの姉。

ところが、彼の全盛期のライブアルバム「Marvin Gaye Live」(1974)では、女性客のすさまじいまでの黄色い歓声でコンサート最大の盛り上がりの場で、やおら「これはぼくのもっとも大切なひとにささげる」と言って、「Janis is my girl…」と実名でガールフレンドに捧げる歌を歌い出す。

会場がシーンと盛り下がるのも意に介さない・・・。

ほんとうのスターなら、公私の別を考え、観客の前では観客が恋人のような態度をつらぬく・・・、しかし、無邪気なマーヴィンにはそんなことは考えもよらなかった。

今の恋人(しかも不倫)を心から愛している・・・。

無邪気なマーヴィンは、「終わった愛を精算して新しい愛に生きよう」くらいのつもりで、恋人ジャニス(当時ティーネイジャー)に愛をささやく。

 

 

一方、モータウンのドル箱アーティストとしての立場、妻がそのモータウンの社長の姉であるという事実、離婚の手続きの進行におかまいなく勝手にアンナへの別れを歌にして発表(1978年の「Here My Dear」)する計算のなさ、あげくのはてにジャニスとの間に子供までもうけてしまうという事態。

これらの要因がからみあって、離婚手続きはこじれにこじれてしまい(当たり前だ)、マーヴィン自身のアルコールやドラッグへの依存も手伝って、もともとスター性の裏に鬱気味の内向性をもっていたマーヴィンは精神的においこまれてゆく。

音楽的にいえば、1973年の「Let’s Get It On」が、ジャニスとの新しい愛にめざめたマーヴィンの躁的なアルバム、それが1976年の「I Want You」になると一転して鬱的な内容に暗転、そして、莫大な慰謝料とともに離婚が成立したあとの、1978年の「Here My Dear」ではフラストレーションが爆発。

この曲がなかったら、「Here My Dear」は暗く重たいだけの「救いのない」アルバムになっていたかもしれない。

by JELLYE ISHIDA.




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